【車いすのダイバー】有名芸能人がアンバサダーをつとめる電動車いすキャンペーンに異議あり!《後編》
寝たきりゼロの老後をすごす方法/その五
■僭越ながら経産省にもの申したいこと
さて前編の繰り返しになりますが、月に1度、電動車いすのメンテナンスに来てくださっているメーカーの方が、興味深い情報を教えてくれました。
それは経産省が「のろーよデンドウ車いすプロジェクト」を始めたというニュースです。
このプロジェクトで主に考えられている普及対象は、どうも電動カートやセニアカーで、それを利用する対象としては「足の力が弱ってきてはいるが、基本的には健康な高齢者」で、目的が移動手段であるように思えました。
だからアンバサダーにも、障害のないタレントを就任させたのだろう。
確かに一見かっこいいプロジェクトだけど、これだと「車を売る感覚と似たようなもの」にすぎないと思うのです。
私のように障害があったり、高齢になって様々な不自由さを感じている人たちには、このプロジェクトを推進するだけでは「電動車いすに乗ろう」とは思わないのではないか。
その理由としては、
(1) 高齢の方が、電動車いすを知らない。乗った体験もないし、「私にはそんなもの運転できない」とか「怖い」と言う方が多い。実際に体験していなければ、その素晴らしさは分からない。 (2) ケアマネージャーなど、介護やリハビリの専門家が、電動車いすのことをほとんど知らない。自分たちが体験したこともない。「高齢者が扱うのは無理」「危ないことをさせたくない」「リハビリにプラスとは思えない」という意識が強い。 (3) 一般社会で電動車いすのことは、ほとんど知られていない。高齢者の家族も、だから、高齢で病気のある身内に、やはり危ないことはさせたくない。
日本の風土かもしれないが、「電動車いすなど使わなくても、自分たちが本人の行きたいところに連れて行くから良い」という気持ちが強い。
家族や関係者は、「安全に介護する」と言うが、自分たちの生活もあるし、高齢当事者も遠慮してしまうから、なかなか自由に外出ができないのです。
■関わる人の意識以外にも必要なもの
勿論、道路の段差のこと、タクシーへの積み下ろしのことなど、環境の改善等も含めて、さらなる啓発が必要です。
もっとも進んでいる、と思われるのは、日本の空港です。特にANAと日本航空(レガシーキャリア)は、障害者をアシストするシステムがしっかり整っていて、専用のデスクまであります。
電動車いすを扱うのには、バッテリーの知識など専門的な内容が必要ですが、羽田空港の専用デスクの方たちは、流石にみな手慣れています。
ところが地方の空港は設備はそれなりですし、職員の方も電動車いすのことを良く知らない例があります。そのような場合は、こちらの説明が大変です。
良いか悪いかは別にして、障害者のケアには人手がかかるのです。
例えばLCC(ローコストキャリア)などは荷物の処理も含めて、すべて自分でやるか、お金が余分にかかりますので、私は利用しません。コストをギリギリまでカットして、「格安」であることを売りに掲げてますから、それを要求するのは無理な話です。
鉄道会社に関して言うと、やはりJR東京駅の対応はすごいです。
手動の車いすを押して案内してくれたり、案内をしてくれる職員が別に常駐しています。シルバー向けに、相当の人数が配置されていると思われます。
ホームに下りてから、各地に出発するまでの乗り換えの手配は抜群だし、新幹線に関しては、専用の待合室もあります。
ただ利用者が多い時は、その専用職員が足りないこともあって、対応に時間がかかります。土・日・祝日などは、時間に相当ゆとりを持って動かないと、ハラハラすることになります。
こういった様々な問題を重々理解した上で、プロジェクトを掲げて頂ければ良いのに、と思います。
「便利」、「優しい」、「家族も安心」、「人生が広がる」を、高齢者ユーザーや、家族、介護やリハビリの関係者にも、アピールする視点が必要なのです。
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著書・執筆紹介
●日本心理学会 「心理学ワールド60号」 2013年 特集「幸福感-次のステージ」
「見ようとする意欲と見る能力を格段に高めるタブレット PC の可能性」
●医学書院 「公衆衛生81巻5号-眼の健康とQOL」 2017年5月発行 視覚障害リハビリテーションの普及
● 一橋出版 介護福祉ハンドブック17「視覚障害者の自立と援助」
1995年発行
●中央法規出版 介護専門誌「おはよう21」2020年12月号から2021年4月号まで「利用者の見えにくさへの支援とケア」連載予定